* * *
――あの日から、数日が経った日の事。
『那智ーっ、来たよ!』
「い、今行く……!」
千歳のその言葉に、あたしは千歳がいる窓際へと駆け寄っていった。
『ほらっ、あれだよね!?』
千歳の指差す方を見ると、そこに体育で外に出てきた先輩達の姿を数人見つける。
そしてその中に、あたしはあの先輩……高遠先輩の姿を見つけた。
あたしが黙って高遠先輩を見つめていると、千歳も窓の外を見下げながら口を開いた。
『いやー……それにしても本当に目立たないわね、高遠先輩』
「えっ、うそ、すごい見つけやすいじゃん……」
あたしがそう言うと、千歳は窓の外に向けていた視線をあたしに向けて、にやにやと笑い出す。
『いやーん、那智ったらほんと可愛いっ! そう思うのは高遠先輩を好きな那智だけよっ』
「えっ、だからちが……」
『否定しないの、好きなんでしょう? でもそうだよね、好きな人ってなぜか目立って見えるんだよねー……』
あたしの答えなんて聞かないで、千歳はそんな事を言いながらまた窓の外へ目を向けた。
……本当に、好きとかじゃないと思うんだけどな……。
あたしはそう思いながら、また窓の外を見る。
そしたらやっぱり、すぐに高遠先輩を見つける事が出来て……。
「……好きって、どういう事なの……?」
不意にあたしは、そんな事を口にしていた。
『……那智、今なんて?』
あたしの言葉を聞いた千歳は、そう言ってびっくりしたような表情であたしを見た。
「え……、だって、あたし今まで好きな人とかいた事ないから、わからなくて……」
“好き”って何なのか、あたしにはわからない。
恋をする事がどういう事なのかも、どうなるのかも……わからないのに。
あたしが高遠先輩を好きなんじゃないかと問われても、わかる訳ない……。