「……先輩……」

『ん?』

「あたし……っ、聞きたい事、が……」

言いかけて、口をつぐむ。

『……何?』

「っ……」

向けられた、優しさの消えた黒い瞳に言葉を失う。

問いかけようとした事を躊躇わさせる威圧的な瞳には、敵いそうもなくて……。

「なんでも……ない、です……」

あたしはじわりと熱くなった瞳を隠すように顔を反らし、震える声でそう言った。

だけど高遠先輩は再び両手であたしの頬を覆うと、反らしたあたしの顔を正面に向ける。

『言いたい事があるなら言って、……隠さないで』

「でも……っ……」

意外にも優しげな声に、少しだけ安心した。

だけど言えない、……聞けない……。

“あたしの事、どう思っているんですか?”

そう問いかけても、きっとはぐらかされる。

ううん……、もしかしたらはぐらかすだけじゃ済まないかもしれない。

冷たい言葉と、無慈悲な瞳に突き離されるかもしれない……。

それが嫌だから、言いたくないのに……。

『那智、お願いだから隠し事はやめて……』

どうしてか切なげな眼差しを向けられて、高遠先輩の視線が次第に落ちてゆくのを見たら……隠す事なんて、出来なかった……。

「……先輩、は……」

震える声は、少しの抵抗。

言ったらだめだと思う気持ちと、言わなきゃだめだと思う気持ちの間で、揺れる気持ち。

だけど言葉につまっても、高遠先輩は何も言わない。

あたしはそんな高遠先輩の無言の問いかけを感じ取って、言葉を続ける。

「あたしの、事……」

『待って』

不意にかけたれた言葉に、あたしは高遠先輩を見上げる。