ただ高遠先輩を見つめて、逸らす事の出来ない視線に紅潮してゆく顔を隠す事も出来なくて……。

頬にそっと触れられた指先に、心臓が逸る。

『……那智……』

高遠先輩は足を止めるとあたしと向かい合い、頬をゆっくりと撫で上げながらあたしの名前を囁くように溢す。

そして蠱惑的な眼差しで、あたしを見つめるから……

「せん、ぱい……」

あたしの心は、完全に……高遠先輩に囚われる。

どうしてあたしは、高遠先輩を好きになったんだろう……。

そんな事を考えたって、答えなんて出てこないのに……一度気にしてしまうと、答えを知りたくなる。

『……那智、目……瞑って?』

「……え……?」

不意に発された言葉に少し遅れて反応すると、高遠先輩はあたしの両頬に手を添える。

『……やっぱり嫌?』

だけどあたしが目を瞑らずに真っ直ぐ高遠先輩を見つめると、高遠先輩は小首をかしげてそう言うから。

「嫌、って……何が、ですか……?」

高遠先輩がしようとしている事は、なんとなくわかったけど……それを素直に受け入れる事はまだ出来なくて、あたしは少しとぼけてそう答えた。

『……うん、本当はわかってるよね?』

そう問い詰められて、だけど相変わらずの優しげな眼差しに、鼓動は次第に速くなり、顔は紅潮してゆく。

『那智……?』

「っ……」

逸らす事の出来ない、吸い込まれそうに綺麗な瞳。

そんなに見つめられたら、本当にどうしたらいいのかわからなくなる……。

――だけど、その瞳の奥に映っているのは……本当に、あたし?