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《今日は帰っていいよ》

高遠先輩からそうメールがきたのは、帰りの支度をしていた時だった。

今日は帰っていいよ、って……どうして高遠先輩はいつもこうなんだろう……。

伝える事は必要最小限な言葉だけ。

もっとこう……どうして帰っていいのかとか、ちゃんと理由を書いてくれればいいのに……。

そう思いながら、あたしは千歳の元へと近付いた。

『……なぁに?』

近付いただけで何も言わないあたしに、千歳は疑問の表情を向ける。

「えっと……今日、一緒に帰れる……?」

『へ? うん、帰れるけど……高遠先輩は?』

「………」

口ごもるあたしに、千歳は何かを察したように頷いて口を開いた。

『わかった、その様子は何かあったのね?』

「ううん、別に何もないんだけど……」

『あとで聞いたげるから、とりあえずちゃんと帰りの支度してきな』

「……うん、わかった」

千歳に話す事は特に何もないけど、とりあえずあたしはそう言って千歳の元から離れた。

『――で、一体何があったのよ?』

学校を出て駅に向かう途中、信号待ちをしている時にそう問われた。

「だから別に何もないんだってば……、今日は帰っていいって言われただけ」

『だからっ、それが変なんじゃない! 最近毎日一緒に帰ってたのに、何で今日は帰っていいって言われる訳?』

そんな事言われても、あたしにだってわからない。

高遠先輩の考えている事が全然見えなくて、あたしはいつも困ってしまう。

「……別にいいの、いつもの事だから……」

信号が青になったから、あたしは小さくそう呟いて横断歩道を渡り出した。

だけど横に千歳の姿はなくて、あたしは振り返る。

「……千歳?」

さっきいた位置から少しも動いていない千歳にあたしが疑問の表情を向けると、千歳は苦笑いを浮かべてあたしを見つめた。

そしておもむろに、口を開く。

『……那智さ、高遠先輩の事本当に好きなの?』

「……え……?」

――瞬間、車のエンジン音や行き交う人々の煩わしい声が、聞こえなくなったような錯覚を得た。

千歳の言葉だけが、頭の中に強く響く。