それでもあたしを見ようとしないから、あたしは自分の力で立ち上がった。

――パシンッ……!

そして右手を振り上げ、高遠先輩の左頬を叩いた。

『な、っ……!?』

叩かれた左頬を押さえて、高遠先輩は目を丸くしてあたしを見る。

あたしは一度涙を拭い、唇を噛み締めて高遠先輩を見上げ、ゆっくりと口を開いた。

「あたしは……それでもいいですっ……」

『……え?』

「っ、わかってるくせに、とぼけないで下さい……!!」

あたしは拳を作って、高遠先輩の胸を幾度も叩いた。

「あたしにっ……優しくしたりして、す……好きにさせてっ、なんで突き離すんですか……!!」

『え…、那智……』

「先ぱ……は、酷いですっ、ひ……卑怯です……!!」

どうしてだろう……、一度言葉にしたら、止まらなくなっちゃった……。

「なんで優しくしたり、突き離したりっ……するんですかぁ……っ」

あたしは高遠先輩に想われない悲しみを、高遠先輩自身にあたった。

こんな事したって、何も起こらないのに……。

『な、ち……ちょっと落ち着いて……!!』

高遠先輩はあたしの両手首を掴むと、少し大きな声であたしをたしなめた。

「……っ」

『なんで……、那智は俺が嫌なんだろう!?』

「違っ……」

『だから俺は君を……いや、ごめん……』

言いかけてやめた高遠先輩の言葉に、あたしは疑問の表情を向けた。

「あたしを、何ですか……?」

沈黙に嫌な予感が拭えなくて、あたしはまた涙を滲ませる。

すると高遠先輩はあたしの腕を掴むと引き寄せて、ギュッと抱き締めた。

「っ、先ぱ……」

『――ごめん……、やっぱり今は言えないんだ……』

「……っ……」

高遠先輩のその言葉に、あたしは鈍器で殴られたような、重い感覚を得た気がした。

「な、んでっ……」

抵抗する力さえ出ないくらいに、あたしは落胆していた。

どうして高遠先輩はいつも答えを隠すのか、知りたいのにそれさえも隠されて。

心は見えないまま、あたしは高遠先輩に囚われる……。