「……あたしはっ、あたしを想ってくれる人じゃなきゃ、嫌なん……――っ!!」
突然言葉を遮ったのは、高遠先輩の熱い熱。
あたしの唇に噛み付くような高遠先輩の口付けに、目眩を起こす……。
「んっ……ふ、ぅ……」
こんな気持ちのないキスなんて、嫌なのに……抵抗を出来なくさせる荒々しさ。
口内に滑り込む舌の感触は慣れる訳もなくて、あたしはただ必死に高遠先輩にしがみつく。
「やっ……、ん……」
『――……は……、っ……那智……』
唇が離れると、あたしは腰が砕けて立っていられなくなった。
ガクンと、その場に砕け落ちる。
『……ごめん……』
そう言って差し出された手から、あたしは顔を反らす。
「っ……」
何が?
何が“ごめん”?
『……俺は、……』
「………」
それきり何も言わない高遠先輩を、あたしは少し睨むように見上げる。
そうしないと、涙が溢れて止まらないから……。
『……ごめん……』
「っ、だから、何がごめんなんで……」
『まだ忘れられないんだ……』
あたしはその瞬間、何も言えなかった。
高遠先輩のこんな辛そうな表情を、はじめて見たから……。
『ごめん……っ、ごめん那智、それでも俺は……』
「――“那智がいいんだ”ですか……?」
『………』
見上げた先の高遠先輩は、明らかに驚いたような表情だった。
元カノをまだ忘れられないだなんて、これ以上に酷い言葉はない。
「図星、ですね……?」
それでもあたしは、やっぱり高遠先輩を離せないみたい……。
その辛そうな表情を、あたしが笑顔に変えたいだなんて思ってる。
あたしは、なんて傲慢なんだろう……。
「そうなんですね……?」
あたしの問いに高遠先輩は答えてくれなくて、あたしから顔を背けると視線を落とした。
その態度だけで、答えが見えちゃうのに……。