あたしの視線に気付いた高遠先輩はハッとしたように一瞬目を見開き、あたしを見つめ返した。
『いや、違うよ? “元”彼女ね、今は那智だけだか……』
「っ、何で……なんでそんな事言うんですか……!?」
大きな声でそう言ったあたしに、高遠先輩は驚いたような顔をした。
あたし自身も自分の言葉に少し驚いたけど、そのまま言葉を続ける。
「元カノからもらったとか、そんな事……いちいち言わなくたっていいじゃないですか……!」
『え、な……』
「あたしは別に、そんな事知りたくないですっ……」
高遠先輩の過去を知ったって、あたしは得しない。
むしろ自分と比べてしまいそうで、辛くなるだけ……。
だから知りたくない、お願いだから、何も言わないで……!!
『……那智』
「………」
『那智、俺はね……』
「っや、言わないで下さいっ……!」
泣きそうになりながら、あたしは高遠先輩の胸にしがみついた。
そのまま見上げると、高遠先輩は切なげな表情であたしを見つめ返して、そっと口を開く。
『……今言わなかったら、俺はきっと君を傷付ける』
「……っ……」
高遠先輩の言葉に、眼差しに……、あたしは絶望した。
あたしを突き離そうとする冷めた表情、そこから発される低い声……。
やっぱり高遠先輩は、あたしの事なんて……
『那智、聞いて……』
あたしの両肩を少しきつめに握り締め、顔をしかめてそう言う高遠先輩に。
「ぃ、いや……」
あたしはゆっくり首を横に振った。
『那智……、お願いだから言う事聞いて……』
それでもなおそう言うから……、あたしは涙を堪えて歯を食い縛り、キッと高遠先輩を見上げた。
「あたしはっ、聞きたくないんです……!!」
あたしが聞きたくないんだから、わざわざ言わなくてもいいじゃない。
あたしに過去を教えて、高遠先輩はあたしにどうして欲しいの……?