* * *
「あの……何を買ったんですか……?」
少し前を歩く高遠先輩に小走りで駆け寄り、隣に並んで問いかける。
『参考書』
それだけしか答えてくれないから、あたしは高遠先輩を見上げて見つめた。
『……何?』
「え、あ……、それだけなのかな、と……思ったので……」
普段は突っ込んだ会話をしないけど、どうしてか知りたくなった。
だけど少し低い声で発された言葉に、あたしは視線を落とす。
やっぱり高遠先輩は、あたしに心を晒そうとしない。
全部見せてくれなくてもいいから、もう少しあたしに心の内を見せて欲しいのに……。
『……時計』
「……え?」
遠くを見つめて不意にそう言うと、高遠先輩は立ち止まった。
それがあまりに突然だったから、あたしは高遠先輩を追い抜いてしまって、振り返る。
『時計がね、壊れてしまったから修理に出してきたんだ』
視線を落とし、あたしを見ようとしない高遠先輩に、あたしは少しだけ切なくなった。
何でかはわからないけど、そこに高遠先輩が隠している“何か”があるような気がして……。
――そしてその予感は、的中してしまう。
「そう、なんですか……。修理に出すなんて、それ程大切な時計なんですね?」
もしかして……さっき腕時計をしきりに見ていたのは、あたしを急かすためじゃなくて、壊れていたのを気にしていただけ?
そう思って少し安堵したあたしは、そのまま問いかけてしまった。
――やめておけば……よかったのに。
「それって、いつもつけてるあの腕どけ……」
『うん、彼女にもらったものなんだ』
……え?
高遠先輩の予想外の言葉に、あたしは言葉が出なくて、代わりにゆっくりと高遠先輩を見上げる。
彼女にもらったもの、って……それって、どういう事……?