その後ろ姿を黙って見つめていると、横に立つ千歳があたしの顔を覗き込んできた。
『あの人ってさ、たしかひとつ上の高遠[タカトウ]先輩だよね?』
「……え?」
名前を聞いても、あたしにはピンと来なかった。
だってあの人の顔は見た事あったけど、名前までは知らなかったから……。
『あれ、那智知らない?』
「あ、うん……」
あたしがそう答えると、千歳はあたしから階段の方へと視線を戻す。
『まぁあの人結構冴えないしね、あたし初めてあんな近くで見たよ』
「うん……あたしも、初めて近くで見た……」
――そう、初めて近くで見た。
今まで遠くからしか見た事なくて、それに千歳の言う通り特に目立つ人でもないから、特に意識して見た事もなかった。
なのに……なんだか今、すごく変な感じ。
まだ少し心臓がドキドキしていて、今見ていた後ろ姿もまだ頭に残っている。
あの優しげな眼差しも、柔らかな微笑みも、大きな手も、落ち着いた静かな声も……その全てが、まだ消えない……。
『……那智、あんたもしかして、惚れちゃった?』
「……っ、え!?」
斜め上からの千歳のその言葉に、あたしは思わず取り乱しそうになった。
そんな自分に驚いて、あたしは顔を一気に紅潮させる。
それと同時に、千歳には核心を衝かれた。
『図星か、那智ってば単純ねーっ』
「えっ、や、違っ……」
『隠さなくていいわよ、顔に出すぎてるから!』
そう言われて、あしは紅潮した顔を手で覆い隠して千歳から背けた。
それでも千歳には、あたしの胸の内を見透かされてしまっていたようで……。
『きゃっ、那智ってば可愛いーっ!! でも高遠先輩って、どんな人なんだろうね?』
そう言ってにやにやと笑いながら、あたしの顔を覗き込む。
「そ、そんなのわかんないよ……っ」