『でも何か少し表情が暗いよ?』

そう言うと高遠先輩は手を伸ばし、あたしの前髪に触れた。

「……っ」

たったそれだけであたしはまたドキッとして、顔が紅潮してしまう。

『……もしかして熱でもある?』

「っ、ないです……っ」

小さく悪戯っぽく笑われて、あたしが赤い顔を高遠先輩から背けると。

高遠先輩は頬杖をついて、あたしをじっと見つめた。

「っな、何ですかっ?」

『ううん、別に』

明らかにあたしを見て笑っている高遠先輩に少しムッとしつつも、あたしは何だか嬉しかった。

だって高遠先輩が今、すごく優しげな眼差しをあたしに向けてくれているから……。

だからあたしは、これならこのままでもいいと思った。

高遠先輩の気持ちを知りたいだなんて思わずに、このまま高遠先輩の傍にいられるのなら、それでいいと。

――だけどそんな気持ちなんて、ほんの少しの事で簡単に消えてしまう……。

『那智、もう一軒付き合ってもらってもいいかな?』

「え? あ、はい、大丈夫です」

あたしが返事をすると、高遠先輩はあたしの腕を掴んで立ち上がった。

『あまりゆっくりすると帰るの遅くなるし、もう出よう』

それがあまりにも急すぎて、支度にまごついてしまうあたしを、高遠先輩は腕時計を何度も見て、間接的に急かす。

そんな風にされたから、あたしは余計に慌ててしまった。