* * *

『……どうしたの?』

「……え? ……あっ、すみません、何でもないです……っ」

――放課後、あたしは約束通り高遠先輩の買い物に付き合っていた。

お昼休みの事は、千歳はあれから何も問い詰めてこなかったから、特に何を言う訳でもなく終わった。

それよりも今は……

『ごめんね、すぐに終わらせるから』

「いえっ、大丈夫です……!」

隣で参考書を真剣に選んでいる高遠先輩に、あたしはドキドキしていた。

何であたし、自分の気持ちを知りたいとか思っちゃったんだろう……。

理解してしまった自分の気持ちに、あたしは困惑していた。

少しでも“好き”と思ってしまったから、今のこの……肩が高遠先輩の腕に触れてしまう程の距離は、すごく緊張してしまう。

『――よし、こっちにしよう。ごめんね那智、会計済ませたら終わりだから』

そう言うと高遠先輩はあたしの手を握り、会計の方へと向かった。

高遠先輩のそんな何の気なしな行動にも、今のあたしは、いちいちドキドキしてしまう。

こんな事になるなら、自分の気持ちなんて考えるんじゃなかった……。

『――那智、何か今日はあまり元気ないね』

「え……?」

買い物が済むと、高遠先輩は近くのおしゃれなカフェに連れてきてくれた。

『何かあったの?』

「な……何も、ないですけど……」

『本当に?』

「っ、はい……」

だけどあたしは高遠先輩の異常なまでの優しさに、戸惑いを隠せなかった。

いつも少しくらいは優しくしてくれるけど、ここまで優しくされるのは初めてで……。