『おはよう那智、……携帯番号教えてよ』
――朝、まだ早い時間なのに校門の前に高遠先輩がいた。
そしてあたしの顔を見るなり、いきなりそう言った。
「えぇ……っ、何で……」
『だから、那智は俺の彼女なんでしょう?』
“彼女なんでしょう”って……なんかそれ、高遠先輩はそう思ってないみたいな言い方に聞こえる……。
あたしはそう思って、口をつぐんで俯いた。
『……那智?』
俯くあたしに、高遠先輩は少し屈むと下から顔を覗き込んできた。
「っ……」
『何むくれてるの……、那智は何が不満な訳?』
……不満?
そんなの、何も言ってくれないところが不満。
だけどもちろんそんな事は言えなくて、あたしはさらに視線を逸らす。
『那智……』
高遠先輩の呆れたような声に、あたしは少しだけ視線を向ける。
すると高遠先輩は、あたしの両頬に手を添えて上を向かせた。
「っ……」
『那智……、君は俺のもの……じゃなかったね、那智は俺の……人? だから言う事聞いてよ』
その言葉に、あたしは顔をしかめた。
『何て顔してるの……』
そんなあたしの顔を見ると、高遠先輩は添えていた手を離した。
「……っ、ぅうぇ……!?」
そして突然、今度は両頬を軽くつまんできた。
『そんな顔しないでよ……どうしたらいいのかわからなくなるだろう……?』
そう言った高遠先輩の少し切なげな雰囲気に、あたしまで切ない気分になる。
だけどそれよりも、つままれた頬が鈍く痛み出して、あたしは高遠先輩の袖を掴んだ。
「あの、いひゃぃ……」
『え? ……ああ、ごめん』
あたしの訴えを聞き入れて、高遠先輩は少し笑いながら手をはずした。
同時に、あたしの頬を指で優しく撫でる。