そんなあたしに困ったような表情になった先輩が、口を開こうとした、その瞬間。

『那智ーっ!!』

人がほとんど居なくなった階段を、人の流れに乗って離れていってしまった千歳が駆け降りてきた。

『ちょっと那智っ、大丈夫……!?』

「っえ、あ……」

千歳は心配そうに駆け寄ってくると、あたしと先輩を交互に見る。

『あれ? えっと……』

そんな千歳に気付いた先輩は、あたしに手を差し出すために屈んでいた体をスッと伸ばし、おもむろに口を開いた。

『この子のお友達?』

『あ、はい、そうです。えっと……那智、あんたどうしたの?』

「っ、あ……」

千歳の顔を見たら安心したのか、あたしはやっと口が利けるようになる。

「えっと……」

『この子うまく立てないみたいだから、とりあえず立たせてあげて?』

だけどあたしが千歳に話す前に、先輩がそう伝えてくれた。

なんだかそれが申し訳なくて、あたしはまた俯く。

『もー……那智ったら何やってんのよ、ほら、立って!』

あたしの腕を掴むと、千歳は半ば強引にあたしを引っ張って立たせた。

「ごめん……っ」

『いーえ、……で? なんでこんなところでしゃがみ込んでた訳?』

「え、えっと……誰かの足に引っ掛かっちゃって、それでその……」

千歳に話しながら、あたしはチラリと先輩の方に目を向ける。

するとそれに気付いた先輩は、あたしに優しく微笑んだ。

『立てたみたいでよかった、じゃあ俺は行くね』

そう言うとあたしの頭に大きな手をのせて、ぽんぽんと軽く撫でた後。

『もう転ばないようにね、女の子なんだから無理しちゃだめだよ?』

続けてそう言うと、あたしに背を向けてゆっくりと階段を上っていった。