『っ、那智……っ』

抵抗するあたしに、高遠先輩は少し驚いたような声になる。

だけどすぐにきつく抱き締めてあたしの動きを封じると、耳元でそっと呟いた。

『っ……那智だから、だよ……』

「………」

やっぱり意味がわからない、あたしだから……何だって言うの?

その続きを教えてくれなきゃ、わからないのに……!

あたしは高遠先輩の胸に頭をぶつけて、もう一度抵抗を試みる。

だけど頭を押さえつけられて、やっぱり抵抗する事を遮られてしまった。

「っ……何で……」

何で……どうして肝心な事は言わないの……?

教えて欲しいのは、その次の言葉なのに……。

あたしが滲んできた涙をすすって堪えていると、高遠先輩はついに口を開いた。

『……ごめん、俺は那智だから……傍に置いておきたいんだ……』

「っ……」

一瞬ドキッとしたけど、冷静に考えてみるとやっぱりそれって、もの扱いじゃないの?

“傍にいて欲しい”ならわかるけど、“傍に置いておきたい”だなんて……。

あたしは少し哀しくて、黙って俯いた。

『……那智?』

俯くあたしに、高遠先輩は耳元で静かにあたしの名前を囁く。

「っ、あたしはっ……」

吐息混じりの静かな囁きに、背筋がゾクリとした。

だけど今はそんな事には気にせず、言葉を発して問いかける。

「……ものじゃ、ないです…、どうして先輩は、あたしの事をそんな風に言うんですか……!?」

腕の中で高遠先輩を見上げて少しきつく言い放つと、高遠先輩はあたしの両肩を少し強く掴んで離し、視線を落として口を開いた。

『……何がいけないの? 俺は那智だから、……那智じゃなきゃ、こんな事……』

また途切れた言葉に、あたしは高遠先輩の手を上から強く握る。

「何で……なんでちゃんと言ってくれな……」

『那智がいいんだよっ……!!』

「っ……!?」