『俺は……』

言いかけて、それから何も言わない高遠先輩に、あたしは問い詰めた。

「俺は、何ですか……っ」

だけど高遠先輩は、あたしから視線を逸らす。

どうして……?

どうして高遠先輩は、言いかけて何も言わないの?

そんな哀しげな表情を見せられたら、あたしはどうしたらいいのかわからないよ……。

しばらく黙り込んでいる高遠先輩に、あたしは意を決してもう一度問い詰める。

「せんぱい……っ」

それでもやっぱり何も言ってくれなくて、あたしが俯いた、その時だった。

グイッと腕を引っ張られて、あたしは高遠先輩の胸に手をついた。

そして高遠先輩は、あたしの体をきつく抱き締めた。

「っ……!?」

あまりに突然の事で驚き、身動きも出来ない程にきつく抱き締められて、あたしは一気に紅潮する。

どうしよう、何でこんな急に……一体何が起きたの……!?

身動きのとれないあたしの耳に高遠先輩の息があたって、それに体がビクリと反応する。

そんな自分が恥ずかしくて、あたしは高遠先輩の制服の脇辺りをギュッと握った。

「っ、せん、ぱぃ……っ」

きつく抱き締められているからうまく声も出なくて、あたしは苦しげな声になっていく。

これ……どうしたらいいの……っ!?

『――……那智だから……』

「……ぅえ?」

耳元で小さく囁かれた声に、あたしはまた身をよじらせながら、続きの言葉を待った。

“那智だから”

……あたしだから、何……?

だけどやっぱりいくら待っても言葉をもらえなくて、あたしは悲しさの中に少し悔しさが込み上げた。

どうしてそこまで言っておいて、続きを言ってくれないの……?

あたしは俯いて、高遠先輩から離れようと本気で抵抗した。