『……いつか言うから』

「……?」

不意に発された言葉に、あたしはまた高遠先輩を見上げる。

高遠先輩はあたしと視線を合わせると、そっと肩に手を置いた。

『今はまだ言えない……君はただ、俺の言う事を聞いていてくれればいい』

「っ、そんな……」

『那智、君は俺のも……ごめん、でも俺は那智の事をもの扱いしている訳じゃないから……』

そう言うとまた、あたしから視線を逸らす。

どうして……。

今は言えないだなんて、そんなの訳がわからない。

それでも今は問い詰めてはいけない気がして、あたしは黙って俯いた。

『さあ、帰ろう』

そう言うと高遠先輩は、あたしの手を引いて歩き出した。

あたしは前を歩く高遠先輩の後ろ姿を、黙って見つめる。

どうして高遠先輩は、あたしに構うんだろう……。

“あたしだから”構うのならまだいいのに、それさえもわからなくて。

本当はあたしじゃなくてもいいんじゃないのかなって思ってしまう。

あの日、あたしが転んでいなかったら、こんな事にはならなかったのかも知れない……。

もしかしてあたし、運が悪いのかな……、それとも……

『――那智』

「え、っきゃ……っ!」

突然歩みを止めた高遠先輩にあたしは対応しきれなくて、高遠先輩の背中にぶつかってしまった。

『ごめん……、大丈夫?』

ぶつけた鼻を押さえるあたしを、高遠先輩が心配そうにして見つめる。

――そうやってたまに見せる優しさが、あたしの心を惑わせる……。

高遠先輩はあたしの手をどけると、痛む鼻に優しく触れた。

『ごめんね、痛い……?』

「っ、だ、大丈夫です……っ」

『本当に?』

「っ……」

あたしは首を縦に振って、熱くなった顔を俯かせた。

だけどそれを、高遠先輩の手に妨げられる。