あたしの問いかけに、高遠先輩はあたしから視線を逸らした。
きつくつぐまれた唇が、あたしの心をさらに痛める。
「何で……っ、なんでですかっ……? 先、輩は……あたしの事っ、やっぱりもの扱いなんですか……!?」
『………』
何も言おうとしない高遠先輩に、あたしはまた涙が溢れる。
どうして……?
もの扱いは嫌、だから気持ちを知りたいのに、どうして答えてくれないの?
あたしはただ、もの扱いじゃなければ……いいのに。
――あたしは多分、高遠先輩を否定しきれない。
……嫌いになれない……。
だから拒絶出来なくて、完全に否定する事が出来ないのかもしれない……。
「っ、せんぱ……」
『俺は、……那智が欲しいんだ……』
「……え……?」
欲しいって……それはやっぱり、もの扱い……?
『那智は、俺の希望なんだよ……』
「っ、え……?」
高遠先輩の言葉が、全然わからない。
あたしが希望って……どういう意味?
意味がわからないあたしは、疑問の表情で高遠先輩を見つめた。
『俺はね、……いや、やっぱりいい』
そう言うと高遠先輩は、あたしの手首を掴んでいた手をゆるめる。
それから体を起き上がらせると、あたしの手を引いて立たせた。
『……帰ろう』
「っえ……」
立たせたあたしの背中や髪を優しく叩いて、汚れを落としてくれる高遠先輩。
その行動は優しいんだけど……見上げるあたしとは視線を合わせてくれなくて、あたしはまた切なくなる。
あたしは視線を落としていって俯き、また溢れ出してきそうな涙を堪えた。
ただ一言、あたしをどう見ているのかだけ、教えてくれるだけでいいのに……。