『那智?』

「……あっ、はい……っ」

色々と考え込んでボーッとしていたあたしに、高遠先輩は屈んで視線を合わせてきた。

『あのさ、もう探すのとか嫌だから携帯番号教えてくれないかな?』

「え? な、何で……」

『何でって……何度も言っただろう、那智は俺のものだって』

「っ、だからあたしはっ……」

『嫌なの?』

「……っ」

少し切なげな表情で真っ直ぐに見つめられて、そう問われてしまったら……言い返せなくて、あたしは視線を逸らす。

『那智?』

「っ、だって……」

『ん?』

渡り廊下を行き来する生徒達にチラチラと見られて恥ずかしいのに、高遠先輩はやっぱりお構い無しというように迫る。

「あたしはっ……も、ものじゃないです……っ」

公衆の面前で、こんな言葉を口にするのは抵抗があったから、あたしは小さな声でそう言った。

別に高遠先輩が好きとか、そういうんじゃなくて。

あたしはただ“もの”扱いをされるのが嫌だった。

『……じゃあ何?』

「え……?」

『ものじゃないなら……何がいの?』

そう問われて、あたしはまた言葉をつまらせた。

“もの”じゃないなら?

あたしは一体、何を期待してるんだろう……。

ものじゃないならなんて……そんなの、あたしは……

「人……、です……」

『……え?』

「あたしはっ、ものじゃなくて、人です……っ!」

何を言えばいいのかなんて、わからなかった。

ただ“もの”は嫌だから、せめて人間扱いをしてもらいたいと、そう思ったのかな……あたしはおかしな事を口走ってしまった。