すねて階段の方へずんずんと歩き出すと、高遠先輩はあたしを追ってくる。
少し速歩きをすると、高遠先輩の足取りも同じように速くなって……。
『待ってよ那智、……ごめん』
腕を掴まれると引き寄せられて、そのままあたしの後頭部は高遠先輩の胸にぶつかった。
そして体は、囲われた両腕に柔らかく包み込まれる。
『小さい事をそんなに気にしてたなんて、知らなかったから……ごめんね?』
高遠先輩にぴったりとくっついた背中から温もりを感じて、頭に頬を擦り寄せられると心臓は早鐘を打ち出す。
……だけど、公衆の面前で、こんな事……っ!
耳まで真っ赤になったあたしに気付いた高遠先輩は、あたしのその耳に息を吹き掛ける。
それであたしはさらに混乱してしまって、恥ずかしさと緊張と、何だかよくわからない感覚に膝を折られてしまった。
ガクリと、その場にへたり込む。
『あ、ごめん……ちょっと悪戯が過ぎたね。もうしないから、嫌いにならないで……?』
あたしの目の前に回り込んでくると視線の高さを合わせた高遠先輩が、切なげな眼差しを向ける。
……そんな事言うなんて、卑怯です……。
「嫌いになんて、なりませんよ……っ」
高遠先輩の手を取り、ギュッと握り締める。
「許しますから、学校行きましょう!」
あたしの言葉を聞くと高遠先輩は立ち上がって、優しい微笑みを浮かべた。
握り締めた手を引かれてあたしも立ち上がると、その手はそのまま離される事もなく……。
『そうだね、千歳ちゃんも待ってるだろうしね』
穏やかで優しいその微笑みは、あの時の……出会ったあの日の高遠先輩の表情と一緒だった。
そう、あたしはこの微笑みに恋をしたんだ。