* * *

『那智ーっ!!』

いつものように、千歳があたしを呼ぶ。

「千歳っ、どこ……!?」

こんな光景、前にもよく見ていた。

ここは駅のホーム、朝の通勤、通学ラッシュは相変わらずあたしを苦しめる。

それでも――……

『那智、こっちだよ』

人混みの中から腕を引っ張られ、前を歩くその人は少し人が少ないところにあたしを誘導する。

『……大丈夫?』

「はい、なんとか……」

心配そうにあたしを見つめるその人に、あたしは大丈夫だと伝えるために微笑みを向けた。

「ありがとうございました、……先輩」

『そっか、それならよかった』

安堵したようにため息をつくと、あたしの頭を優しく撫でてくれるその人は……大好きな、高遠先輩。

前は嫌いだった人混みも、今みたいに高遠先輩が助けてくれるから、最近はそんなに嫌いでもない。

……むしろ、わざと人混みに入る事もしばしばあるなんて……言えない。

『千歳ちゃんは先に行っちゃったみたいだね』

人がまばらになった階段の方を見やると、確かに高遠先輩の言う通り、千歳の姿はない。

「さっき声は聞こえたんですけど、……そう言えば先輩はどうしてあたしを見つけられたんですか?」

あたしは朝は決まって、千歳と登校する。

いつも少し離れたところに高遠先輩の姿を見るけど、離れているのと人が多いのとで、駅に降りた時の混雑で見失うのに……。

『どうしてって……常に那智から目を離さないようにしているからかな?』

「え、でもあたし小さいから見えなくなっちゃいませんか!?」

『えっ、あはは! まぁたしかに見失う事も多々あるけど!!』

真剣に問いかけたのに、高遠先輩がいきなり思い切り笑い出すから……あたしは高遠先輩の肩の辺りを思い切り叩いた。

「なんでそんなに笑うんですかっ! 小さい事は、コンプレックスなのに……っ」