『……那智は、俺の事を好き?』
「っは、い……」
見つめた高遠先輩の瞳は優しげで、温かくて……。
『君は俺に何を望む?』
あたしの頬にそっと触れる指先からも、優しさと温もりが伝わってくる。
「あたしは、先輩に……望むものはないですけど」
これがあたしの、正直な答え。
望むものなんてない、あたしを好きでいてくれるなら、傍にいてくれるのならそれでいい。
「少しくらい、傷付けてくれてもいいんです。先輩は先輩らしく、そのままで、有りの儘でいて欲しいんです。……それがあたしの唯一の望みです」
微笑みを携えてそう言うと、見つめた高遠先輩の瞳が少し揺らいだ。
だけどそのまま細められた瞳は、あたしに優しい微笑みを向けてくれる。
『那智は、本当にいい子だよね……。ありがとう、俺は俺のままでいいって言葉に……何だか救われたよ』
高遠先輩の潤む瞳があたしを真っ直ぐに見つめて、その眼差しに心を囚われる。
胸が少し痛んで、それでもそれは心地よい痛みで……そこから広がる痺れにも似た感覚は、甘く温かく全身を包み込んだ。
「あたしを、ちゃんと先輩の彼女にしてくれますか……っ?」
なんとも言えない心地よさに酔って、知らずにゆるんでいた涙腺から溢れ零れた涙が、あたしの頬を伝う。
それを高遠先輩の細い指が掬うと、優しく、壊れ物を扱うように、大事に、柔らかく抱きすくめられた。
『君が望むなら、……いや、俺らしくした結果で言うよ。……那智、俺の彼女になってくれませんか……?』
あたしの耳元でそう呟くと、ギュッと力強く抱きすくめられて、少し息苦しくなった。
それでも伝えられた言葉が嬉しくて、嬉しくて……。
「っ、……はひ、はい……っ!!」
何度も何度も頷いて、あたしも負けないくらい高遠先輩をきつく抱き締めた。
――この瞬間の事を、あたしは永遠に忘れない。