「本当は、先輩はまだ……あたしで遊んでるんですかっ……?」

背中に回していた手を離して、そのまま一歩下がる。

少し距離を作って俯き、小さくそう呟いたあたしの前で、高遠先輩は立ち尽くすだけ。

何も言わないのは、図星だったという事?

「本当は、初めのままっ……、まだあたしをどん底に、突き落とすつもりなんですか……!?」

あたしを好きだなんて、やっぱり嘘?

傷付けたくないなんて、本当は思ってもいない?

顔を上げて高遠先輩を見ると、立ち尽くしたままあたしを真っ直ぐ見つめているだけ。

……その切なげに見える眼差しは、こんなに必死になっているあたしへの、憐れみ……!?

「っ、黙ってないで、答えて下さ……、っ……!」

そう叫ぶと、突然腕を思い切り引っ張られて、きつく抱きすくめられる。

振りほどこうにも、今までにないくらいきつく抱き締められているから、少しも身動ぐ事が出来ない。

「やっ、は、なして……下さ……」

『離さないから……! ……好きだよ、那智が好きなんだよ……っ。好きすぎて、……ほんの少しでも傷付けてしまう事が怖いんだっ……』

あたしをきつく抱き締めながら、何かに怯えるように震える高遠先輩。

『俺だって那智に傍にいて欲しいよ、離したくないんだ……!』

声までも震えて、らしくない言葉ばかり……思った事をそのまま口にして。

『君を傷付ける事はもうしたくない……でも、きっとそんなのは無理だ』

あたしが何かを言う前に、次々と言葉を呟き続ける高遠先輩を、あたしはそっと抱き締め返す。

密着した体から伝わる温もりは、さっき感情的になっていたあたしを嘘のように落ち着かせた。