胸の内に溜め込んでいた言葉を口にしたら、少し気分が落ち着いた。

あたしは手を止め、拳をほどいて高遠先輩の胸に手をついた。

そしてそのまま、すがるように高遠先輩の胸に顔を埋める。

「……何も、してくれなくてもいいから……っ」

本当に、何もしてくれなくてもいいんです。

ただ傍にいてくれるなら、それで……。

恋人らしい事だってしてくれなくてもいい。

あたしが高遠先輩の傍にいたいのは、そういう事がしたいからじゃない……純粋に、一緒にいたいから。

「お願っ……し、ますっ」

覚悟なんて決めてくれなくてもいい……、傷付く事なんて怖くない。

ただあたしが怖いのは、貴方が離れてしまう事だけだから……。

セーターの胸元をギュッと掴み、胸に押しあてた額を擦り付けるようにしてすがり付く。

駄々をこねてるようで、惨めかもしれない……それでもそんな事は気にしていられない。

どうしても高遠先輩を頷かせたくて……、あたしは必死に体を密着させた。

『っ、那智……離れて』

「いやっ、嫌です、離れません……!」

少し苦しげな声を聞いて、それでもあたしは腕を背中に回して抱きつくと、力を込めて抵抗した。

すると高遠先輩は大きなため息をつく。

『はぁ……、聞いて那智』

「っ……」

意外にも優しい声色に、あたしは腕こそは離さずに、聞く事だけには抵抗しなかった。

そんなあたしの様子に気付いたらしい高遠先輩は、静かに話し出す。

『離れたりはしない……、傍にはいるつもりだよ?』

柔らかくあたしの頭を撫でた手のひらが、あたしの心を穏やかにする。

思い切り力を込めていた腕をゆるめ、セーターの背中の辺りを軽く握り締める。

『でもね、……“何もしない”っていうのは無理だ』

「……え?」

顔を上げると、視線が重なった。

あたしを見つめる高遠先輩の瞳は優しげで……少し緊張してしまう。