『あと、……一番心配なのはもし付き合った場合、その後の事かな……』

少し恥ずかしそうにしながらそう言った高遠先輩を、あたしは真っ直ぐに見上げた。

付き合った後の事って、……それは、もしかして……

『前はさ、無理矢理キスしたりとかしただろう? あれはごめん、正直那智の事は何とも思ってなかった時だから出来たんだ』

「……何とも思ってなかったから、ですか?」

『うん、……でもね、本当は俺好きな人には何も出来なくなっちゃうんだ……』

そう言うと自嘲気味に笑った高遠先輩は、一度深く息を吐き、あたしを真っ直ぐに見つめる。

『だから浮気されたんだ。樹は何もしてくれなさすぎるって言われてね、……大人はわからないよ』

あたしを見つめたまま少しだけ表情を暗くした高遠先輩は、そっとあたしの頬を指で撫でる。

その指に意識が集中してしまい、なんとなく気恥ずかしくなったあたしは目を逸らした。

『那智はさ、俺に何を望む?』

両頬を大きな手のひらで包むとゆっくり顔を近付けてきた高遠先輩に、あたしの心臓は早鐘を打つ。

間近で見つめられると、逆に逸らせなくなって……額をコツンと合わせて見つめ合う。

あたしが、高遠先輩に望むのは……

「別に、何も望みません」

自分から何かを欲したりはしない、我が儘を言って困らせたくはないから。

だからあたしは、高遠先輩が望む通りにするだけ。

『……何も?』

「はい、……でも強いて言うなら“高遠先輩”を望みます」

『俺?』

あたしの言葉に小首を傾げた高遠先輩に、あたしは頬に触れられる手にそっと触れる。

「こうしていてくれるならいいんです……、傍にいてくれるだけで、あたしは……」

『だから那智、俺にはまだ君の傍にいる資格はないんだよ』

頬に触れる手に少しだけ力が加わり、表情を苦しげなものにすると、高遠先輩はそっとあたしから手を離した。