「じゃああの時泣いてたのは……」
言いかけて、あたしは口をつぐんだ。
余計な事を聞いちゃったと思って恐る恐る千歳を見ると、意外にも千歳は笑っていた。
『ちょっとー、あえてそれに触れちゃうー?』
「え、ご、ごめん……っ」
『まぁいいよ、あれはね……ただ那智に初めて隠し事をされた事がなんか悔しくて、寂しかっただけ』
「えぇっ……?」
それが嘘か本当かはわからないけど。
千歳は嘘をつくような子じゃないから、あえてこれ以上は触れない事にした。
「なんか色々とごめんね? あたし、ちゃんと全部話すよ」
あたしがそう言うと、千歳は笑ってあたしの頭の上に手をのせた。
『いいよ別に、話してくれなくていいから。ていうか一度隠したんだから、むしろ最後まで隠しなさいよ!』
そして少し荒っぽく、あたしの頭を撫でる。
そのあっけらかんとした態度と千歳らしい答えに、あたしもつられて笑ってしまった。
――それから、今日何事もなかったかのように千歳と笑い合って。
ふと我に返って携帯で時刻を見ると、いつの間にか日にちが変わっていた事に気付いたあたしは、慌てて話を中断する。
「もう帰らなきゃ……!」
『あ、ほんとだ、日にち変わってる』
腰掛けていた椅子から立ち上がり、同じように立ち上がった千歳に体ごと真っ直ぐに向き直す。
「じゃあ千歳っ、……今日は、ごめんね……?」
色々と申し訳ない事ばかりしてしまったのに、こうして変わらず笑ってくれた千歳。
あたしがそう言うと、千歳はあたしの頭をぽんぽんと叩き、にっこりと笑う。
『何謝ってんのよっ。“ごめんね”じゃなくて、“ありがとう”にして?』
そしてそう言うから……あたしは千歳に向けて、少しだけ笑って口を開く。
「……ありがとう……。じゃあ、また明日ね」
『もう今日だけど、またねっ、おやすみ!』
そうして千歳と別れて、あたしは少し速歩きで家へ帰った。