「そう、なの……?」
『……まぁ、そうかな……。あたし、那智は絶対あたしに隠し事なんてしないって決めつけてたの』
再びあたしから視線を外すと額に手をあてた千歳は、髪の毛をクシャッと握る。
『バカみたいにさ、那智はあたしにだけー……って、なんか、一種の恋愛感情みたいなものを感じてた』
「っえ!?」
『え、……あ、違うよ!? 別に那智にそういう感情がある訳じゃなくて、ただの例えだからっ!』
恋愛感情だなんて言葉に驚いたあたしが思わず声を上げると、千歳はとっさに言葉を修正した。
そしてそのまま、言葉を続ける。
『だってさ……、嬉しいじゃん。相手が自分に隠し事もしないで、何でも話してくれるって』
千歳の話を黙って聞きながら、あたしはそれを高遠先輩と重ねていた。
ずっと話してくれなかった過去、それを話してもらった時――……衝撃はかなりあったけど、たしかに嬉しかった。
高遠先輩との距離が少しでも近付いたような、そんな気がした。
……実際高遠先輩とは、近付いてなんていなかったけど……。
つまり、千歳はあたしに対してそれと同じような感情を持っていたという事……?
『まぁ全部話してくれなくても、信頼してくれていた事には変わりないのにね?』
言いながら千歳は、あたしを真っ直ぐに見つめる。
千歳に高遠先輩との事を全部話せなかったあたし。
それでもたしかに、あたしは千歳を信頼していて……千歳以上に何でも話せる人なんて、いないのに。
『あの時はあんな事、……高遠先輩との事なんて捨てちゃえとか言っちゃったけどさ……』
不意にそう言うと視線を次第に落としていく千歳の手を、あたしはギュッと握り締める。
それに驚いて顔を上げた千歳に、今度はあたしが視線を合わせた。