《うん、……じゃあ那智、しばらくはさよならだ》

「っ……」

落ち着いた静かな声色、それでも少しだけ哀しげに聞こえるのは、気のせいじゃないって思ってもいいですか……?

《次に那智と電話をするとしたら、きっと……その時は覚悟を決めているかな》

「……決めていて下さい、早く、決めて、……っ」

《泣かないで、……いや嘘、泣いて、俺の事を想って泣いていて欲しい……》

――それはきっと、高遠先輩の切実な願い。

そしてきっと、あたしに対する気持ちを伝えた、遠回しな愛情表現。

「ふっ……わかりました、泣いて待ってます」

高遠先輩のちょっと変な愛情表現に泣き笑いになって、涙を拭いながらあたしがそう言うと。

《ありがとう……》

携帯から、小さくかすれるようにそう呟いた高遠先輩の声が聞こえた。

……それだけで、拭ったはずの涙が頬を伝う。

今はただ待つしかないのがもどかしい、本当なら無理矢理にでも離れないくらいの気持ちはあるのに……。

「……待ってます、本当にっ、泣いて待ってますから……っ!」

《うん、……はは、なんかそう言われると、切るのが惜しくなってきた……》

「っ……!」

またそうやって、貴方はあたしの涙を誘う……。

ずるい、本当にずるいっ……だけど、そのずるささえ愛しい……。

《でもキリがないもんね、だから切るよ。……またね、那智》

“またね”って、それだけで嬉しくなってしまうあたしの恋心は、一体なんなんだろう?

「はいっ……では、またっ……」

あたしが同じように答えると、高遠先輩はもう一度『またね』と言って……そのまま、通話を切った。