《謝らなくていいのに……やっぱり那智は素直だね》

苦笑混じりにそう言った高遠先輩の声は、再び優しさを纏わせてあたしを翻弄する。

高遠先輩は、ずっとそうだった。

完全には突き離さないで、言動のどこかしらに優しさを携えているから、あたしは貴方を嫌いになれなかった……。

「先輩は、ずるいです……」

ほんの少しの優しさで貴方を信じたくなるあたしは、完全に、貴方の虜。

もうこの恋心は、きっと消える事はない。

だから、あたしは貴方を信じて待つから……。

「信じます、あたし先輩を信じますからっ……。だから今は離れても、必ずあたしを……」

《うん、必ず。約束するよ、那智に誓う》

携帯越しに囁くように呟かれたその言葉、今はそれだけで充分嬉しかった。

ほんの少しだけど、さっきよりも未来が見えた気がして、あたしは無意識に口元を緩ませていた。

そこから小さく漏れたあたしの含み笑いに、高遠先輩が笑う。

《ぶふっ……那智って本当に現金だよね》

「な、っ……!?」

《でもだからこそ、那智が本当に素直な子なんだってわかるよ……》

穏やかな声色は、携帯越しだとさらに穏やかに聞こえる。

だから余計に高遠先輩が優しく感じて……。

何も言えなくなってしまったあたしに、高遠先輩も何も言ってくれなくて、沈黙が流れた。

お互いの想いを知っていて、その想いが通じ合っていて……彼氏彼女という関係なら、きっとこの沈黙さえも幸せの一部なんだろう。

でもあたし達は、まだそこまで到達していない……ただお互いの想いを知っているだけ。

通じ合っているようで、通じ合っていないから……。

「……じゃあ、もう切りますね……」

沈黙に陥ると、胸には不安しか湧かない。

哀しいけど、それがあたし達の現実。