《……でも那智を好きなままでいる自信はあるよ?》
「っ、そんなの、離れてしまったらわからないじゃないですか……!」
――そう言ったあたしは、墓穴を掘った事にまだ気付いていなかった。
気付かされたのは……高遠先輩が、酷く暗い声を出してから。
《……那智を好きになるまでの3年間、俺は別れてから一度も会う事もなかった相手を、好きで居続けていたよ……》
悲しみなのか、怒りなのか……、高遠先輩のその暗い声はあたしの胸を凍り付かせる。
あたしは今、高遠先輩の辛い過去を掘り返してしまった……。
「……っ」
言葉を返せなくて、でも返さなきゃいけない気がして声を絞り出そうとするけど、何かが咽を詰まらせる。
何か言わなきゃ……とにかく、せめて謝らないといけないのに……っ!
《いいんだよ那智、謝らなくていい。俺にはそういう過去があるから信じて欲しい……そう思って言っただけだから》
あたしの心の声が聞こえていたかのように、タイミングよくそう言った高遠先輩。
急に優しくなったその声色は、あたしを余計に申し訳なくさせた。
あたしが変な事を言ったから、……信用しなかったから、高遠先輩に嫌な思いをさせてしまった……。
「ご、めんなさいっ……」
謝らなくていいだなんて、そんなの無理に決まってる……多分高遠先輩はわかっていた。
優しい言葉をかける事で、あたしが自分を責めると……わかっていたから。
だからあえて優しくするなんて、酷い人……。