『……わかるよ、君はあの時の俺と似ているから、君の想いは痛いほど伝わる。でもだから怖いんだ……。君のためを思うなら、……昔の自分と重ねるなら、一緒にいてあげたい』

俯いた表情が、少し歪む。

『でも状況が元カノ側になった今の自分は、傷付けた君と一緒にいるのは心苦しくて……』

「でも、先輩はあたしを好きだと思ってくれているんですよね……?」

床についていた高遠先輩の拳に自分の手を重ね、軽く握って顔を覗き込んでそう問う。

『……うん……』

少し目を見開いた後、涙を浮かべた眼差しであたしを見つめた高遠先輩は、静かに頷いた。

そして不意に、真剣な口調で言葉を発する。

『だから那智、少し……君と距離を置きたいんだ』

「え、っ……」

目の前の、涙を瞳に浮かべる表情とは裏腹に、高遠先輩の言葉は真剣そのもので……真っ直ぐにあたしの心に刺さる。

『今の俺じゃ那智の隣にはいられない……。また傷付けるのが目に見えているんだ』

「そんな事……」

『本当なんだよ、……正直まだ君を信じきれていないし、俺自身も覚悟が足りないんだ』

「……覚悟?」

まだあたしを信じきれていないと言われるのは、すごく切ないけど……それよりも、覚悟って……?

『……傷付けた相手の傍に居続ける事は、多分君の想像以上に心苦しいよ』

「っ……」

高遠先輩の言葉は切実で、自分に置き換えて考えるだけでそれが事実だと思わされる。

確かに高遠先輩の言う通り、心苦しいかもしれない。

でもそれって、少し距離を置くくらいでどうにかなる問題なの……?