『俺と一緒にいながら他の男とする事して、子どもって……正直呆れたよ』

表情を隠すように片手で顔を覆った高遠先輩を、あたしは覗き込む事が出来なかった。

目の行き場を失ったあたしは、高遠先輩から視線を外して床を見つめた。

知らなかった……ううん、知らなくて当然だったけど、高遠先輩の過去がそこまで壮絶だったなんて……。

『……那智、顔を上げて、これは君が気にする事じゃないよ。それで話の続きだけどね、俺はバカだから許してしまったんだ』

「っ……」

あたしの頭を撫でて顔を上げさせると、高遠先輩は泣き出しそうな顔で苦笑いを浮かべる。

バカだから、なんて……そんなの違いませんか?

貴方はきっと、元カノさんを……

『違うか、許す事しか出来なかったんだ……。本気で好きになった人を、俺は恨む事なんて出来なかったんだよ』

――そう、本気で好きだからこそ、何でも許してしまうのが本当の恋心……。

『だからもし、君が俺を許すと言うのなら……』

「本気です、……あたしは、本気で先輩が好きなんです……っ!」

だからあたしは、貴方を許してしまう。

『那智……それ自分で自分はバカです、って言っているようなものだよ?』

少し笑ってそう言った高遠先輩を、あたしも少し笑って見上げる。

「いいんです。バカでもなんでも、あたしの気持ちが本気だって知ってもらえるなら、それで充分です」

あたしがそう言うと、高遠先輩は真顔になって少し視線を落とした。