『ねぇ那智……もし君が俺の立場だったら、自分を許せる?』

「え……?」

微笑みに似つかわしくない、重い言葉。

自嘲気味な高遠先輩の表情が、あたしの答えを静かに待つ。

あたしが、高遠先輩の立場だったら……?

高遠先輩を傷付けて、それでも高遠先輩はあたしを好きでいてくれて……許すと言ってくれる。

――もし、あたしが傷付ける側だったら。

いくら相手が許してくれると言っても……相手を傷付けた自分を許せない。

「っ……」

急に突き付けられた現実は、重い貫きで胸を痛める。

自分を高遠先輩に置き換えるだけで、こんなにも先が暗くなるなんて……。

『その様子ではわかったみたいだね……。でもね、反対に俺も那智の立場になってみたら、やっぱり許したくなるんだ』

「え……?」

『俺も、3年前のあの時そうだったから……』

瞳を伏せてあたしから少し視線を逸らし、高遠先輩はゆっくりと呟き出す。

『本気で好きだったんだ。あの人はあの人なりに俺を大切に想ってくれていたし、俺はそれを幸せだと感じていた』

それは高遠先輩の元カノとの思い出、今まで口にしてくれなかった、過去。

『でもね、幸せなんてあっという間に崩れるんだ』

急に声が低くなり、ふと気付くと高遠先輩は暗く悲しげな眼差しをあたしに向け、奥歯をきつく噛んだ。

『……男がいたんだよ。しかも俺をフッた理由に呆れたよ……子どもが出来たって言ったんだ』

「え……」

『でも俺はあの人と“そういう事”はしてなかったからね、どう考えても他に男がいただろう?』

そう言うと突然、声をあげて笑い出した高遠先輩をあたしが驚愕の眼差しで見上げると、一瞬で真顔に戻った。