《は、別れたぁ!?》
「……そういう事に、なっちゃった……」
――その日の夜、あたしは千歳に電話をかけた。
高遠先輩の突き離しを、どうしてもひとりで抱えられない気がして……。
《なにそれ。“そういう事になっちゃった”って、一体どういう意味よ?》
携帯越しに聞こえた千歳の呆れたような声は、それでもあたしを慰めるように優しく問いかける。
「まだ別れたって決めたくないから、……先輩は、いつも一方的だから……」
勝手に話を進めていってしまう高遠先輩は、いつもあたしのためだと言うけど、そんなの違う。
あたしを傷付けた事に負い目を感じて、そんな自分を許さないだけだと思う……。
《……それってさ、別れたって言わなくない?》
「そうかな……、でも先輩は……」
《那智はどう考えてる? 別れたなんて……、それを高遠先輩の言葉だけで決め付けちゃうの?》
千歳にそう問われて、あたしは思わず言葉を忘れた。
たしかに高遠先輩の言葉だけで決め付けるのは嫌、あたしは高遠先輩の傍にいたいから……。
「あたしは、……認めたくない、別れたなんて思ってない……っ」
自分の意思を尊重する、……こんな簡単な事にも気付かなかったなんて、あたしは一体何をしていたんだろう。
いくら高遠先輩があたしを突き離しても、あたしを好きだと言ったあの言葉は、きっと本当だから。
だから離れてはいけない、一度裏切られる事を知ってしまった高遠先輩相手だからこそ、その通りに離れてしまったらだめ。
高遠先輩は嘘つきだから……、言葉と考えている事がきっと正反対。
だったらあたしは我が儘になろう。
高遠先輩の言葉は一切聞き入れないようにしよう。
そうすればきっと、あたしの誠意が伝わるから……嘘つきな貴方の嘘を、あたしが“本当”にする……。