『……だって那智、俺は君に好きになってもらえる立場じゃないんだ……。君を騙して傷付けてきた俺が、どうして好きになってもらえるというの?』
重い口を開いた高遠先輩は、やっぱりあたしを受け入れてくれない言葉を突き付ける。
それでも……あたしの決意は、揺るがない。
「そんなの、決まってるじゃないですか……。あたしは、先輩の優しさに惹かれたんです。先輩は、いつだってあたしに優しかった……っ」
今ごろ気付いたのは、高遠先輩の矛盾の裏側。
傷付けるという事と、傷付けたくないという事の矛盾、それは間違いなく優しさだと思う……。
『那智……、俺のどこに優しさがあるというの……。どう考えてもそれは変だろう?』
呆れたような表情でそう言う高遠先輩に、あたしは静かに首を横に振る。
一見高遠先輩は、優柔不断で酷い人のようだけど……、本当はそこに優しさがあったから、あたしを完全には突き離さなかった。
突き離したら、それは本当にあたしを捨てる事と同じだから……
「違うっ……先輩があたしを突き離さなかったから、……だからあたしは……」
『俺は“さよなら”と伝えただろう……!? ……俺は君を手離しただろう……、なのにどうして戻ってきたんだ……!』
再び剣幕な表情になると、あたしの肩を掴んで何度も揺さぶる高遠先輩を……あたしは何も言わず、ただ黙って見つめた。
『もう嫌なんだよ……! 傷付けられる事は辛いってわかっているのにっ、自分が傷付けてしまうのが、……怖いんだよ……っ』
――初めて見た気がする、高遠先輩の心の弱い部分。
それはとても切実で、傷付けられた事があるからこその悩み……。
『……こんなに、怖い事だとは思わなかった……。ただ同じ哀しみを与えるだけで、自分は平気だと思ってた……っ』