高遠先輩が過去に傷付いた理由なんて、正直あたしには全く関係のない事。
それなのに、自分の負った傷を他人にも思い知らせたかっただなんて、そんな高遠先輩のエゴに巻き込まれたあたしは?
貴方はあたしが、傷付いていないとでも思っているというの……!?
「勝手すぎます……! あたしの気持ちを無視してっ……思い通り傷付けたのに、なのに……勝手に別れを告げてっ、自分は裏切られるのは嫌……? ……そんなの、酷……」
『――だってしょうがないじゃないか……!!』
「なっ……!?」
剣幕な表情で“しょうがない”と口にした高遠先輩を、あたしは半ば呆れ気味に見上げた。
この期に及んでしょうがないだなんて……どうしたらそんな事が言えるの?
どうしたらそう思えるというの……?
『っ……ごめん、違う、違うんだ那智……。そうじゃない、……俺だってそんな風に思いたくはないよ……』
高遠先輩は我に返ると、自分が発した言葉に驚いたようにして、次第に視線を落としていった。
『那智の言う事はその通りだ、俺はしてはいけない事をした……。那智は悪くない、悪いのは全部俺だ、だから俺は君を手離すんだよ……?』
哀しげに笑いながら完全に俯いてしまった高遠先輩は、あたしの肩に添えていた手さえも静かにおろした。
そして小さく、かすれるように言葉を絞り出す。
『怖いんだ……、君を傷付けてしまう事が……』
そんな……今さらそう言われても、あたしも信じる事が出来なくなってきている……。
傷付けるために近付いて、なのに傷付けるのが怖いだなんて……どうして貴方は、いつもそんなに矛盾しているの……?
「……どうしてですか……、先輩はあたしを傷付けられて、本望なんじゃないんですか……?」
皮肉を言うあたしを、静かに顔を上げた高遠先輩は哀しげに見つめる。
そんな顔されても、あたしはどうする事も出来ない……。