『でもね、一度負った傷はなかなか治らない……。心も同じ、一度裏切られたら、必ずどこかでその記憶が過るんだ』
小さく呟かれる言葉を、聞き逃さないようにと耳を澄ます。
微かに震えて聞こえる声は、高遠先輩の心を表しているようで、酷く切なくなる……。
「でもっ、あたしは本当に……」
『信じたいけど、……信じきれないんだよ……』
言葉を発する前に、それを言わせないというように言葉を重ねられた。
……本当に、裏切ったりしないのに。
あたしは高遠先輩の元カノじゃない。
あたしはあたし、だから全てが違うのに……どうして比べるの?
どうして一緒にするの……?
「信じてください……っ。あたしは、先輩の元カノじゃない……比べたりっ、一緒にしたりしないで下さい……!」
ブレザーを掴んで揺さぶりながら、思った事をそのまま口にすると、高遠先輩は少し驚いたように目を見開いた。
「みんながみんなっ、人を裏切る訳じゃないです……! 先輩は、それがわからないんですか……っ」
だけどすぐに顔をしかめると、あたしの両肩を強く掴んだ。
『じゃあっ……、君は裏切られた人間の気持ちがわかるのか!?』
叫ぶように、悲痛にそう言った高遠先輩に少したじろぎながら……あたしも負けじと声を張る。
「っ、わかりますよ……! だって、それを思い知らせたのはっ、誰だと思ってるんですか……!!」
あたしのその言葉に、肩を掴んでいた高遠先輩の手がビクリと反応した。
そしてあたしから反らした顔は、決まりが悪そうに横顔を曇らせる。
「……自分ばっかり……、先輩は、人の事言えない立場なのにっ……どうしてあたしを責めるんですか……!」
あたしの言葉は、間違っていないはず。
なのにどうして貴方は、人を責める前に自分を悔い改めようとしないんですか……。