あたしは高遠先輩の目の前で、涙を一粒落としてしまう。
――瞬間、高遠先輩の表情が強張ったのが、涙で滲む瞳でも見てとれた。
そしてそれと同時くらいに、周りからいろんな言葉が耳に入る。
“泣かされたのかな?”
“あの男の子は見てるだけなの?”
“酷ーい……”
……違う、高遠先輩は悪くない。
あたしが千歳とはぐれてしまったから、だから勝手に泣いてしまっただけなのに……。
なのにどうして、高遠先輩は何も言わないの……?
誤解だって、訂正しようとしないの……!?
どうして何も言わないのか、それを問うようにあたしが高遠先輩を見上げると。
涙で少し歪んで見える高遠先輩が、あたしに手を伸ばした。
「っ……!?」
それがあまりにも急だったから、あたしはびっくりして思わず目をギュッと瞑る。
……と、次の瞬間には、あたしは違う驚きで目を見開いていた。
あたしに伸ばされた高遠先輩の手が、指が……あたしの頬に伝った涙を優しく掬ったから……。
その驚きで、何も言えずにただ高遠先輩を見つめるあたしに、高遠先輩はやっと言葉を口にする。
『君はたしか、この前の子だよね?』
「えっ……」
高遠先輩……あたしの事、覚えていてくれたんだ……。
忘れられていてもおかしくないのに、覚えていてくれた事が嬉しくて、あたしは思わず笑みを溢す。
同時に、滲んでいた涙も制服の袖で拭った。
『……どうして泣いていたの?』
そんなあたしの様子を見ながら、高遠先輩は困ったような表情でそう問いかけてきた。
それであたしは、自分の置かれている状況を思い出す。
そうだ、あたし千歳とはぐれちゃったんだった……。