きっかけなんて、本当に些細な事だった。

あたしが駅で派手に転んでしまった時、ただひとり、あの人だけが笑わずに助けてくれた。

ただ、それだけ。

優しげな眼差し。

そっと差し出された手。

“大丈夫?”落ち着いた、静かな声。

たったそれだけで、あたしの心は見事に撃ち抜かれてしまったんです。

顔しか知らなかった……ひとつ歳上の先輩。

あたしは本当に、顔しか知らなかった――……。



 Episode,1
  素顔の貴方、あの記憶