「タケシ君、受け取って、
最後の手紙。」

タケシの部屋の窓めがけて、
紙ヒコーキを飛ばしました。
五メートル離れているとはいえ、
慣れたもので、
紙ヒコーキは
タケシの窓に向かい、
一直線に飛びました。
カオリは、タケシが
もういないのは分かっていても、
その部屋に別れの
手紙を飛ばしたのです。
これで、タケシへの想いに、
少しでも踏ん切りが
付けば、と思ったのです。

「あっ。」

そう思った瞬間でした。
紙ヒコーキがバランスを
崩しました。晴れていて、
殆どなかった風が
大きく吹いたのです。

『ヒュウーーー…』

カオリはその風に、
心の色を感じました。

「この風、黄色い…、
タケシ君の色だ…。」

目が見えるようになって、
カオリには、盲目の時のような
人の気持ちが分かる
心の色は見えなくなっていました。
なのに、その風には、
ぼんやりと黄色い色が
かかっているのが
見えるのです。
しかも、盲目の時でも、
生命のある物以外に
色が付いている事など
ありませんでした。

「この風、生きてる…
タケシ君と同じ綺麗な黄色…。」

その風は、横から吹き付け、
紙ヒコーキは窓に入るどころか、
軌道は大幅にズレ、
そのまま風に
巻き込まれるように
空高く舞い上がりました。

「タケシ君っ。」

カオリは叫びました。
 紙ヒコーキは、
黄色い風に乗り、
どこまでも空高く
飛んで行きました。
その時、気のせいなのか、
カオリには、
その黄色い風の中に、
ボンヤリとタケシの
上半身の陰が
見えたように思えました。

「タケシ君、
天国に旅立つんだね。」

また気のせいなのか、そのタケシの
ような影は手を
振っていたように見えたのです。

「さようならー、タケシ君っ。」

カオリも大きく手を振りました。
 やがて、紙ヒコーキは、
黄色い風と共に、
空のかなたへ
と消えて行きました。
 その瞬間、カオリはなぜか、
今まであった悲しみ、
悩みが吹き飛びました。
これまでにない、
晴れやかな気持ちで、いつまでも、
青く雲ひとつない
綺麗な空を
見上げていました。