「うん、想像なんかより
全然綺麗、空も土も、
建物も、それに植物や動物、
そして人々も…。」

この時、カオリは一瞬、
タケシの顔を思い浮かべました。
カズヨはそれを察しました。

「カオリちゃん、
タケちゃんの部屋
見てないわよね、
そのままにしてあるから、
二階上がってもいいわよ。
写真なんかも置いてあるし。」

しかし、カオリは
ゆっくり頭を横に振りました。

「ううん、今見たら
タケシ君の事思い出して、
更に悲しくなっちゃうから、
もうちょっと時間が経って、
落ち着いたら見せて下さい。」

カオリは、葬式が
終わった今も、
まだタケシの死という
現実を信じられず、
傍にいるような気が
してならないのです。
タケシのいない
タケシの部屋を見たら、
いやがおうにもタケシの
死を受け止めなくてはならない事は、
自分がよく知っていたのです。

「なあカオリちゃん、
聞いてもいいかな?
タケシに別れている時から、
すべて網膜移植させる為の
計画だった訳だけど、
疑問に思った事は
無かったのかい?」

コウイチが聞くと、
カオリは、少し
考えた素ぶりを見せてから、
答えました。

「タケシ君から別れようって
言われたんだけど、
後で母のせいだって分かったんです。
それで、よりを戻そうと
したんですけど、タケシ君は
私から離れていってしまって…、
まさかその辺りから
計画の為だなんて
思わないから、本当に辛かった…。」