タケシは、ゆっくり目を閉じ、
静かに息を引き取りました。
コウイチは病院中に
声が響く程の大きな声を
あげて泣き伏せました。
 その時、薬剤室のドアは
開け放たれたままでしたが、
その光景を見せつけられた
看護婦や患者達は、
さすがに、誘拐犯である
タケシとコウイチですが、
同情する他ありませんでした。
通報を受け、
駆け付けた警察官でさえも、
一瞬、躊躇した程です。

「さ、さあ、その手の
ナイフを寄こしなさい。」

警官は気を取り直し、
コウイチに警棒を構えました。
と言っても、振り向いた
コウイチの手には
すでにナイフなどなく、
床に転がっていました。
コウイチの気迫も失せていました。
警官はコウイチを
取り押さえようとすると、
中澤医師が割って入りました。

「待ちなさい、
この人はもう何もしませんよ。
それより、血を
流してる彼を運ぶ方が先ですよ。。」

「そ、そういう訳には…。」

警官が戸惑いを見せる中、
中澤医師はタケシの
首筋に手を当てると、
一端、気を落としたように
頭を下げる仕草を取り、
コウイチに呼び掛けました。

「残念ながら、
タケシ君は助かりません。
でもここは、私も
誘拐犯の一味になりましょう。
彼の目は私が生かしてみせます。」

コウイチは目を見開き、
中澤医師を見上げました。
驚くのも無理はありません。
中澤医師は、コウイチに
連れられた車の中で、
計画の全貌を知らされていました。
とはいえ、中澤医師が
その茶番劇に乗ってくれる
というのですから…。