そして、タケシが
精神異常を演じた理由は
他にもあるのです。
それは、鍵の掛けられた
薬剤室への侵入です。
強力な麻酔薬を入手する為と、
カオリに、本当に死の薬が
あるものと思わせる為でした。
その為に、自分の精神異常の
演技で、カオリを騙し、
ナイフを突き立て、
病院内の看護婦までをも騙し、
脅す必要があったのです。
 とはいえ、カオリに
飲ませた薬は、死を招く薬ではなく、
強めの麻酔薬でしかありません。
ここまでの狙いは、
カオリを病院に連れて来て、
眠らせる事なのです。
その後、カオリを
眠らせている間に、
コウイチによって
強引に連れて来られた中澤医師により、
死んだタケシの
角膜をカオリの目に
移植させる計画だったのです。
当初タケシは、
自分だけで、この計画を
行おうとしましたが、
一人では成立しない事に
気が付きました。
眠らせたカオリ、
強引に連れて来た中澤医師、
そんな中、タケシは
角膜を提供する為、
命を絶たなければなりません。
自分が死んでしまえば、
中澤医師を脅す者がいなく、
医師にとって、
角膜移植を行う必要は
なくなってしまいます。
そこで、このところ、
相談相手になっていた
父のコウイチに、今回の
計画を打ち明けたのです。
自分が死んだあと、
父が中澤医師を脅し、
何としてでもカオリに
角膜移植を行わせて欲しいと…。
自分はどうせエイズに発症し、
もう数か月ももたないのだから、と…。
意外にも、この計画に
快諾してくれたコウイチですが、
父としての
考えもありました。