「先生、ちょっと
来てもらえますか?」

コウイチの手には、
長い出刃包丁が
握られていました。

「キャーッ。」

案内の看護婦が
悲鳴を上げ、
コウイチから退きました。
中澤医師は慌てて、
口の中に入っていた
ご飯を飲み込みました。

「あ、あなた、何を…。」

「とにかくついて来て下さい、
そうすれば乱暴は
しませんから、診てもらいたい
子がいるんです。」

そうは言いつつ、
包丁は中澤医師の
方に向けられています。
中澤医師は言う事を
聞くしかありませんでした。
通報を受けた警察が
病院に駆け付けた時は、
既に、コウイチは
中澤医師を車に乗せ、
走らせた後でした。

 中澤医師を乗せ、
車を走らせているコウイチに、
タケシから電話が
入ったのは、
その時でした。
薬で眠らせたカオリを
確認したタケシの、
あの電話です。

「分かった、
そっちへは二十分程で着く、
そのまま待ってるんだぞ、
いいか、そのままだぞ、
早まるんじゃないぞ。」

そう言って、
コウイチはタケシの
待つ病院へと急ぎました。