「じゃあ、俺と一緒に死んでよ。」

「えっ。」

その瞬間、タケシは右手に
持っていたナイフを
前に突き出しました。
素早くカオリの
背後にいくと、
首に手を回しました。

「タケシ君、本気なの?」

「本気だよ、
一緒に来てくれよ。」

タケシは、そう言って、
カオリの首に回している、
その手に力を入れました。
しかし、その手の力は
弱弱しく、振りほどこうとすれば、
離れられるような力です。
それ程、タケシは
弱っていたのです。
ですが、あえて、
カオリはタケシの
行動に従いました。

「分かった、タケシ君が
まだ私を好きなら、
私はタケシ君に付いて行く。」

カオリは、それ程までに、
まだカオリを好きだったのです。
タケシは、一瞬切なげな
表情を浮かべつつも、
ナイフは下ろさず、
カオリを病室の外へと
誘導しました。

 「おばさん、ちょっとどいてっ。」

掃除用のカートを
転がし廊下を遮っていたおばさんに、
タケシが声を張りました。
その声に、おばさんを
初め、廊下を歩く患者や、
看護婦達もタケシの方を見ました。

「キャーッ。」

タケシがナイフを
カオリの首元に突き立てている
そのただならぬ光景に、
患者の女性が悲鳴をあげました。

「ちょっとどいて、
そこ通りたいんだっ。」

周りがざわめきつつも、
ナイフを持つタケシからは、
距離を置いています。

「なんで、こんな目立つ事
するの?私逃げないって
言ってるじゃないっ。」

カオリの問いに、
タケシは小さな声で答えました。

「薬を手に入れる為、
こうするんだ。」

騒ぎを聞きつけてか、
看護婦長が駆けつけて来ました。