カオリの元へ
一本の電話が入りました。
それは、タケシの父コウイチ
からでした。

「タケシの精神状態が
不安定なんだ、君に会えば
何か変わるかもしれない、
一度会ってもらえないか…、
少しでも元気に
なってもらいたいんだ。」

カオリも、タケシと
会わなくなってずっと
タケシの事が気にはなっていました。
まさかエイズが
発病しているとは思ってもみず、
しかも精神が
錯乱状態とあっては、
タケシへの心配が
ますます募るばかりです。
 カオリは、タケシに
会う決意をしました。

 タケシの病室は個室です。
カオリが病室に入ると、
タケシは一人、
ベッドの上に横たわっていました。

「タケシ君?」

問いかけるように
声をかけました。
タケシはゆっくり
カオリの方を向きました。

「カオリ…さん…。」

カオリは笑顔で
近寄ろうとすると、
タケシは顔を強張らせました。

「何しに来たの?俺に何か用?」

タケシの素っ気ない
反応に戸惑いつつも、
更に近寄りました。

「タケシ君が心配で、
まさかエイズが発病するなんて…。」

タケシは更に
険しい表情を浮かべました。

「あなたとは別れたんだから
関係ないっ、
もう帰ってくれないかっ。」

カオリは寂しげな
表情を浮かべました。

「タケシ君、私はタケシ君を心配して…。」

「なら、俺の為に何かできるのかよ。」

「私に出来る事が
あれば何でも言って?」

タケシはうつろな目をして、
ベッドから降りました。