翌日、タケシは
コウイチの経営する
喫茶店に足を運びました。

「おおタケシ、いらっしゃいっ、
何か冷たい物でも飲むか。」

タケシは今まで父を軽蔑し、
散々冷やかな態度を
取ってきたのに対し、
コウイチの対応はいつも温かく、
今改めて申し訳なく
思うばかりでした。

「父さん、婆ちゃんから
全部聞いたよ、母さんの過去や、
元々感染していたのは、
母さんだって事も…。」

コウイチは、食器を
洗っていた手を止め、
タケシの座るテーブルの
向かい側に腰を下ろしました。

「そうか…、婆ちゃんには、
余計な事言わなくて
いいって、言ってたんだけどな…。」

コウイチは、苦笑いを
浮かべ頭を掻きました。

「母さんの事も、軽蔑したか…?」

その問いにタケシは、
すっきりしたような表情で答えました。

「ううん、母さん苦労して、
そして辛い思いしてきたのは分かるよ、
それよりも、今まで
父さんに冷たい態度取っちゃって…。」

「タケシ…。」

「父さんは母さんを好きだから、
HIVになるのも覚悟で
母さんと付き合ってきた事、
それ考えると凄いって思うよ。」

「いや、でもその為に、
お前まで感染させて
しまった事は、本当に悪いと…。」

「いいんだ、俺は父さんと
母さんの子でしかないんだから、
これからも一緒に病気を
分かち合いたいって
思えるようになったよ。」

タケシは満面の笑みを
浮かべました。

「タケシ…、本当にごめんな、
本当にありがとな…。」

コウイチはタケシの手を
両手で握ると、
大粒の涙を流しました。
それを見ると、タケシも
涙が湧き出て来ました。
この時、父子が
分かり合える瞬間だったのです。