「ねえ、外で話そう。」

「あ、そうだね。」

確かに、周りに人がいる
中での話ではありません。
タケシは足早に
ホールを抜けました。

「カオリさん、遅いなあ。」

玄関先で待ちますが、
なかなか出てきません。
やがて、カオリの姿が見えた時、
タケシに衝撃が走りました。
 カオリはゆっくりと、
杖を付きながら
タケシの方に歩いて来ました。
その杖は、足元の地面を
確認する為、目まぐるしく
動いています。

「カオリさん…、目が見えないの…?」

タケシは恐る恐る聞きました。

「そっか、ちょっと
顔見ただけじゃ分かんないよね、
そう、小さい頃、交通事故で
車のガラスの細かい破片が
両目に入って、それ以来目が
見えなくなってしまったの。」

”そっか、
紙ヒコーキに書いてあった字、
上手に書けないのも
無理はないか…。”

タケシは、一瞬そんな事を
思い出しましたが、
次に色んな疑問が浮かび上がりました。
そして、今まで
なぜカオリの目が見えない事に
気付かなかったのか、
振り返りました。
 先程、さゆり苑に来た時、
タケシと目が合ったカオリは
すぐに目を反らして
しまいましたが、
タケシを忘れていたのではなく、
そこにタケシがいた事に
気が付いていなかった事が
分かります。
確かによく見れば、
カオリの瞳孔は薄く青みがかかり、
焦点が合っていないのが分かります。
しかし、それ以外は、到底、
カオリの目が見えないようには
思えませんでした。
 それにしても、隣の部屋から
見ていたタケシがいる事が分かる
ばかりか、五メートルも離れた隣の
部屋に紙ヒコーキを
投げる事など、
目の見えない人には、
そう出来る技ではありません。

「あの、今までとても目が見えないとは、
気付かなかったよ、
いつも誰かに付き添ってもらっているの?」