「え、何が?」

おばさんは、タケシの腕を掴み、
再びホールの方へ
引きずるように連れ出しました。

「カオリちゃん、お客さんだよ。」

おばさんは、タケシを
カオリの目の前に突き出しました。

「あ、あの、こんにちは、
タケシです。覚えてますか?」

カオリはすぐに
笑顔になりました。

「タケシ君、来てくれたの?」

“良かった、覚えてくれてた”

と、タケシはその反応に
ホッとしました。
おばさんはタケシの背中を
グイっと押し、小声で語りかけました。

「ちゃんと話するんだよ、
おばさん忙しいから、
あっち行くよ。」

「あ、ありがとう、おばさん。」

おばさんは、そそくさと、
離れて行きました。
二人への気遣いもあったのです。
タケシは、ここまで
カオリと至近距離で会う事は
初めてです。
照れくささで、まともに
顔を見る事が出来ず、
下を見つつも、何とか
言いたい事は言わないと、
と口を開きました。

「ごめんなさい、
こんな所まで押しかけて、
でも、もう一度会いたくて…。」

カオリは慌てたように、
首を横に振りました。

「いいえ、私の方こそ
謝らないといけない事が…。」

そこに、タケシが口を挟みました。

「聞いたよ、カウンセリング
だったんでしょ。
はは、じゃなきゃ
俺なんかと友達にならないよね。」

タケシはおちゃらけて見せました。

「そんな事ない。
確かに、最初はカウンセリングの
仕事って思ったけど…。」

タケシは、表情を強張らせました。

「思ったけど何?
その先が聞きたいんだ、
それを聞きたくて来たんだよ。」

カオリは下を向きました。