「何してんの?」



笑顔でもう一度、尋ねた。

女はぼんやりとした様子で顔を湖に戻し、それから小さく小さく「何も」と呟いた。

消え入るような音量だったけど、耳に馴染む澄んだ声音をしていた。

まるでこの湖みたいな声だと思った。

あまりにも無感情な反応で困ったけれど、その端正な横顔に無性に惹かれてオレは続けて話しかけた。



「この湖でっかいよな。びっくりした」

「・・・」

「つーかめっちゃ綺麗。オレこういうの見るの初めてなんだよねー」

「・・・」

「お前は?いつもここいんの?」



返事はない。

ただぼんやりと、何かから逃げるように彼女は湖を見続けていた。

俺のバカみたいにでかくて明るい声が森を抜けていく。



「ていうかオレね、今日引っ越してきたんだ。だから今探検中ってわけ」

「・・・ふーん」



やっとした返事もたった一言。

何も興味ありません。

そういわんばかりに湖から視線を逸らすことも無く、女は答えた。

むかついたのか、興味が沸いたのか、はたまたただの気まぐれだったのか。

次の言葉は反射だった。



「お前も一緒に来る?」



女がまたゆっくりとこちらを見る。

くるんと丸い目は驚きに見開かれ、真っ直ぐにオレを射抜いた。

表情が変わった・・・・・・気がした。っていうか、目に生気が戻ったっつーか。

なんとなく満足した。