「私達は、秋になるとこの地を離れて暖かい南の地に行くの。
───秋になってここに来る貴方達とは、本当は相容れない存在なの」
震える細い声でかすれながらも喋る彼女を、オレはぎゅっと抱きしめた。
なぁ、もう言わなくていいよ。
寒いなら俺があっためてやるから。
いくらでもお前のために春にでも夏にでもなってやるから。
飯だっていくらでも俺が捕まえてきてやるから。
だから、もうそんなこと言うなよ。
相容れないだなんて、
そんな言葉、
聞きたくない。
「私、家族と離れちゃって、帰り方が分からなくなっちゃったの。
だからずっとここにいた・・・。
アナタに会ったとき、奇跡かと思った。
本で見た美しい白い鳥が、本当なら会えない鳥が、目の前にいたんだもの」
短い時間だって分かってても、私は幸せだった。
一緒にいたかったの。
嘘ついて、ごめんね。
彼女はそう言って、そっと目を細めた。
「───ッ!!
意味わかんねぇよ!!だったらどうしてさっさと南に行かないんだよ。
俺なんかと一緒にいたって死んだら元も子もねぇだろ!!」
子どものようなわがままだった。
彼女をまったくいたわらない、自分の感情任せの声だった。
けれど、そんなオレを彼女は柔らかく慈しみに富んだ瞳で見つめ、
そして、なだめるようにオレの顔に手を伸ばしてきた。
その弱弱しい手をぎゅっと握る。
「だって、一人で行ってもワシに食べられちゃうだけだもの」
「───・・・つまり、ワシに食べられずに、南に行ければいいんだな?」
「それは、そうだけど・・・でも、こんなに弱った体じゃ、もうあきらめるしか・・・キャァッ」
もう、何も考えることはなかった。
オレは彼女の手を強引に引っ張り、背に乗せる。
そして「しっかり捕まってろよ」と一言前置きすると、勢い良く地を蹴って空に舞った。